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中学時代にやってた命がけのおにごっこ

中学時代、おにごっこに命を張っていた。

中学一年から卒業まで、晴れの日も雨の日も風の日も雪の日も、毎日毎日、飽きることなくおにごっこをやっていた。何やっても長続きしない私だが、おにごっこだけはやり続けた。

従来のおにごっこは逃げられる範囲を決めて遊び、時間がくれば終わりを迎える。しかし、私たちがやっていたおにごっこには逃げられる範囲も時間も無制限。逃げる人はどこまでも逃げていい。鬼はいつまでも追い回していい。延々と続くおにごっこは鬼が諦めて帰宅するとその日は終了となる。翌日、鬼が登校してきた時点でおにごっこが再開する。

授業中もおにごっこ

最初のころは授業中もおにごっこをしていた。もちろん先生に怒られるし、成績にもひびく。これはよくない。そこで私は次のようなルールを作った。

授業中は着席している人に対してのタッチは無効。しかし、授業中でも席を立っている人へのタッチは有効

このルールによって授業中にやたらとおにごっこを続けることはなくなった。さらに、授業中でも椅子から尻を離すとタッチが有効になるというのがスリルがあって面白かった。鬼は授業中でもスキあらばタッチしようとする。だから、何か発表するために席を立つ時は椅子を尻に押しつけたまま立ち上がったり、プリントを先生に提出するときも椅子を尻に押しつけたまま教壇へ向かっていた。

おにごっこストロングスタイル

おにごっこに真剣に取り組む、おにごっこ仲間が四人いた。そのおにごっこ仲間には、“鬼のまま帰宅するのが絶対に嫌”という本能みたいに強烈な共通意識があった。逃げるためなら、教室の扉を閉めて追りくる鬼にぶつけたり、交通量の多い国道で轢かれるか轢かれないかのタイミングで車道へ飛び出し鬼を引き離したり、怪我しそうな高さから意を決して飛び降り鬼を撒いたいりしていた。生傷は絶えなかった。

我々が命をはっておにごっこをしているとも知らず、軽い気持ちで我々のストロングスタイルおにごっこに参加したがるクラスメイトがたまにいた。我々は来るもの拒まずなので、ゲストとして招き入れるのだが、“鬼のまま帰宅するのが絶対に嫌”という意識が希薄なゲストは簡単に鬼になるし、鬼になったらなったで命を張って逃げまわる我々にタッチすることが出来ない。だからすぐ鬼からの脱却を諦め「んじゃまたあしたねー」と鬼のまま平気な顔して帰ってしまう。我々はこういう奴らを「おにごっこ精神に欠ける」と言って見下しバカにしていた。「おにごっこ精神に欠ける」奴らとおにごっこをやったって何も面白くない。本気度が違いすぎる。我々は真剣で彼らは木刀。彼らが我々に太刀打ちできるはずもない。

おにごっこタッチ技

そんなおにごっこ仲間の中でも群を抜いて“鬼のまま帰宅するのが絶対に嫌”意識が高かったと自負する私は、少々卑怯な手段を使ってでも必ず鬼を誰かになすりつけて帰宅していた。私が考案したタッチ技をいくつか紹介しよう。

  1. 「痛い痛い」といきなりうずくまり、怪我したフリして心配を誘い近づいて来た人にタッチする『仮病タッチ』
  2. 「いいもの見つけた!」と言って関心を誘い近づいて来た奴をタッチする、『チャーム・ザ・タッチ』
  3. 「ちょっとマジで今タイム、話がある」と妙に真剣な顔して呼び止めタッチする、『マジモードタッチ』
  4.   自転車置き場で待ち伏せしてタッチする、『根くらべ待ち伏せタッチ』
  5. 「鬼どこいった?」と言って相手に鬼ではないと思わせ安心させといてタッチする、『演技派タッチ』
  6.   追跡している相手の体にもう少しで触れられそうなくらいの距離で「よし!」と小声で言い、タッチしてないのにさもタッチしたかのようにガッツポーズをとり走って逃げる、『タッチしたふり逃げ』

鬼で帰宅後、悔しくて夜間訪問タッチ敢行

これらタッチ技を駆使して鬼をなすりつけ帰宅していた私がだ、一度だけ鬼になって帰らざるを得ない日があった。その日、どうして鬼のまま家に帰ってしまったのか、今ではまったく思い出せないが、とにかく悔しくてしょうがなかった事だけは覚えている。悔しくて大好きなアニメ「ドラゴンボール」を観てもまったく楽しめないし、悔しさで晩ご飯が喉を通らなかった。そこで私は「これから誰かの家に行ってタッチしてこよう」と思いついた。新技「夜間訪問タッチ」の誕生である。

ターゲットは家が近所のおにごっこ仲間S君に決めた。さっそくS君ちに行って玄関の扉を開けると美味しそうなカレーの匂いがした。すぐ逃げられるように扉は開け放ったままにしておいた。「すいませーん」と声をはりあげると、玄関にS君のお母さんがやってきた。「宿題の箇所を教えてほしいんです」と伝えてS君を呼んでもらった。しばらくして「よう」とS君が玄関に現れた。晩飯中だったようで口をもぐもくさせている。私は自然な表情を浮かべ「よう」と挨拶した。

S君は鬼である私を警戒している様子はなかった。いくらストロングスタイルのおにごっこ仲間といえど、家に帰った時点でおにごっこ精神は一時停止するようだ。明日登校するまで私が鬼だったなんていう事実は意識の外なのだろう。S君は無警戒に教科書を持って私に近づいてくる。

新たな試みに私の胸は高鳴った。胸の鼓動を彼に聞かれ怪しまれるのではと不安になる。近づいてくるS君をギリギリまでひきつけ「宿題なんだけどさー……、タッチ!」と、彼の腰辺りに素早く触れた。「よしッ」と小声で呟き、素早く踵を返して玄関を飛び出した。後ろから「うおりゃーッ」というS君の咆哮が聞こえたが構ってなんかいられない。今は全力で逃げるのみだ。

やった、鬼を渡すことが出来た。私は走りながら勝利を確信していた。S君が私を追うには靴を履かなければならない。彼が靴を履く時間があれば相当引き離せる。サンダルならすぐ履けるだろうが走りにくくてスピードが出ない。私の勝ちだ。これで今日はぐっすり眠れる。

後ろから何やら規則的な音が聞こえる。まさかと思い振り返ると、街灯に照らされ修羅の形相で迫り来るS君が。そんなバカな、靴を履くの早すぎだろう。私はS君の足元を見た。なんと裸足だった。舗装されていない砂利だらけの道を裸足で疾走するS君には鬼気迫るものがあった。

「こいつどんだけ鬼が嫌なんだよ」

迫り来るS君の恐さと滑稽さがない交ぜになり、私は走りながら笑い出した。笑うと全身の力が抜けて走れなくなり、崩れて地面に転がりよだれを垂らしながら大笑いした。追いついたS君は私にタッチした後、タッチ返しされないよう私からある程度距離を取り、笑い転げる私をしばらく見ていた。すると彼も笑い出し、次第に腹を抱えて笑いはじめた。星空の下でしばらく二人で爆笑していた。

それから我々の間で夜間訪問タッチが流行った。

この記事は、バキュームカーという名前で個人的にやってたmixiに2010年11月6日に投稿した日記をサルベージしたものです。このころ暇さえあれば小説を読んでいて、その影響で一人称を「私」にしてみたり、「だ・である」調のかっこつけた文体になってます。ちなみに40歳になった今でもタッチされるとタッチし返さないと気が済みません。

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